3年でサブ3を達成する物語『33QUEST』

メタボ中年が無謀にも市民ランナーの大いなる頂きであるサブスリー(フルマラソン3時間切り)を目指すブログ。『サンサンクエスト』

採血の達人2

 

前回のつづき

 

5月8日、かかりつけのクリニックで採血のため待合室で待機している。

「さんちゃ~ん」

「は~い」

自身の名前がアナウンスされた私は待合室の長椅子から腰を上げた。出迎えてくれた若い看護師さんが誘導してくれるので後ろをついて行く。どうやら今日は奥の個室へと案内される日のようだ。

かごの中に荷物を置き、促されるまま丸椅子に腰を下ろす。まずは体重・体調などを伝え、それから血圧と脈拍の足底、ん?測定。よし。血圧がうまく測れずカフを腕に巻きなおして再測定。何故か漂ってくる緊張感にドキがムネムネしてくる。

血圧・脈拍ともに異常なし。さぁいよいよ、次は採血だ。

消毒でかぶれが出ないかなど、お決まりの受け答えをする。

「いつもはどちらの腕でやりますか?」

「え~と、どちらからもやります」

親指を固く握りしめた両腕を、私は彼女に差し出す。まずは右腕をチェックしていく。しかし右腕は早々に見切りをつけられてしまう。左腕の血管を確認していく。若い看護師さんは難易度の高いであろう左腕の正中に照準を絞っているようだ。マスクの上に見えるきれいな瞳から迷いは感じられない。確固たる意思を感じるような真剣な眼差しだ。看護師さんは私の左上腕部に手慣れた感じでチューブを巻きつけると、パパパパっと素早くカルテを捲り何かを確認している。その時は何をそんなに熱心に確認しているのかわからなかった。

若い看護師さんで、奥の部屋に案内された為、最初は初々しい新人さんかなと思った。けれど、彼女の言葉、所作、確認作業からは、自信の無さや、慣れないことを行なう前の迷いや不安は感じられない。恐らくは私の勘違いだったのだろう。

腕を拭かれた後のアルコールが、熱を奪って瞬く間に蒸発していく。そして彼女の持つ注射器の針が左腕の皮膚を貫こうとする瞬間、私が発するものなのか、彼女が発するものなのかはわからないが、マジックを成功させる直前のような緊張感にこの場が包まれた。

私が先端恐怖症であったなら、恐らくここで気絶してしまっていただろう。張り詰めている緊張感は、注射針に向けられた視線が動く事を許してくれない。

そこからはあっという間であった。注射針の侵入を許してしまった私の血管からは、滞りなく採血管に血が送られていく。と同時に視線の固定を余儀なくされていた緊張感は霧散し、高揚感のようなものが小さな部屋を満たしていく。それは確かに彼女が発するものであった。そして新たなものと取り換えられ血がいっぱいになった採血管は、くるくると下に向けられたり上に向けられたりしながら手際よく保管されていく。

採血は無事に終わり、血が止まりにくい事はないかなど、これまたお決まりの文句に受け答えしながら、針が抜かれる。彼女は無事に採血を終えた印をつけるように、名残惜しそうにそこにテープを貼った。私は指示されるままにテープのうえから注射の跡を押さえて圧迫する。「ありがとうございました」と言ってすぐにその場所を離れてはいけないような厳かさがそこにはあった。というよりも何だろう。一度掴んだ鳥を再び野に放つのを惜しんでいるような雰囲気というか、彼女の視線や言葉の放ち方にそのように感じさせる何かがあった。私は何か言葉をかけるべきではないかと感じた。こういう時、巧者なら外角低めに逃げていく変化球を放つのかもしれない。もしくは強気な人であれば内角高めに力強いストレートを投げ込むのではないだろうか?しかしコミュニケーション能力の不足している私は、ど真ん中に全く面白みのない棒球を放り込む事しかできなかった。

「看護婦さんうまいですね」

しかも今時「看護婦さん」なんてあまり言わないような気もするし、それに「うまいですね」なんてちょっと変態的ではないかと若干恥ずかしくなった。彼女はそんな私の心情などは意に介さないように話し出した。

「実は前に失敗しているんです」

一瞬なんの事か理解できなかったが、すぐにいつか採血に失敗した娘だったんだとの思いに至った。しかも今日と同じ左の正中で失敗した娘だ。完全に回想モードになってしまった私には相変わらず棒球しか持ち手がない。

「あ、上手くなったんですね」

「一年間修行しました。今日はリベンジです」

なんと私の血管は見事にリベンジされてしまったのだ。熱心にカルテを捲っていたのは、今まで誰がどこから採血したのか確認していたのであろう。(誰が、はないかもしれないが)彼女が失敗した時のあの日の事を鮮明に思い出し、あれから努力して色々な経験を積んできたんだなと感慨深い思いに包まれていた私は、手持ちの棒球も尽きてしまい、多分「そうだったんですか」くらいしか言えなかったと思う。

お会計を済ませ自動扉を出ると、頭上には5月のさわやかな青空が高く広がっている。空を仰ぎ見た私は嬉しいリベンジに胸を躍らせながら家路を辿った。

 

今日のランニング

2020/05/10(日) 04:59 くもり 18℃

  1. Eランニング 90分

3:18に赤ちゃんが目覚めて、それから再び寝るまで一連のお世話をして、ワイフが起きてきたのでバトンタッチ。そして朝ランに出発。

夜ランもいいけど、朝ランはやっぱり気持ちいいなと感じる。

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体力が落ちているのか90分でもきつい。

足も心肺も。

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息苦しいのはマスクのせいもあるかも。

それか歯止めの利かない体重増加のせいか…

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今月の走行距離

  • 62.4㎞

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